僕等はここにいる
□浮遊閑話
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2 母の願い
「あらまぁ」
後ろ姿でもわかりやすい、長い朱色の髪に思わず声をあげてしまった。
すると彼は驚いたように振り返って私を見た。
昼間見たばかりの、でもどこか違うその顔に微笑む。
「いらっしゃい。それとも、お帰りなさいかしら?」
『・・・・見えてるん、ですか?』
困惑した表情で彼は言う。
他人行儀なところはあえて気にしないことにした。
今更『母』になろうなどと厚かましいことはしたくない。
「見えていますよ。その様子だと、普通は見えないのかしら?」
『・・・はい』
暗い表情で俯いた彼はどこか幼い。
「今はアークというのでしたね。・・・ひとつ、お願いがあります」
『母、上・・・?』
躊躇いがちなその言葉に苦笑した。
ああ、この子はまだ私を母と呼んでくれるのですね。
「私のこと、許さないでくれますか?」
『ッ』
私は2人の、いえ、3人の子供に気づくことができなかった。
気づいていたのかもしれない。
けれども目を逸らしていた。
これは私の罪。
許されるわけにはいかない。
彼は少しばかり泣きそうな顔をしたけれど、すぐに力強い瞳をこちらに向けた。
『・・・はい、シュザンヌ様』
それから彼は一度だけ礼をして、その場をあとにした。
1人になった部屋で、私は呟く。
『本当は、笑ってほしかったのですけれど』
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